八月の終わりの夜、寝る前に来月のカレンダーを開きました。仕事の予定、病院、友人との約束。九月はもう、思っていたより埋まっています。そのなかに、二人で出かける日だけがありません。「落ち着いたら行こうね」と話していた場所は、今年もまだ、名前のまま残っています。責める相手はいません。二人とも、ちゃんと忙しかっただけです。それでも少し不思議に思う、二人の時間の行方の話です。

この記事でいっしょに考えること

  • なぜ「空いてたら行こう」の予定は、いつまでも来ないのか
  • 二人の時間が後回しになるのは、気持ちが薄れたからなのか
  • どうすれば、二人の日は予定表に残るのか
  • 置いた日をうまく使えなかったときは、どうすればいいのか

なぜ「空いてたら行こう」の予定は来ないのか

カレンダーを閉じて、画面を伏せます。

来月の予定が埋まっていること自体は、悪いことではありません。

仕事も、家のことも、人との約束も、どれもきちんと理由があって入っています。

ただ、そのどれもが日付を持っていることに気づきます。

会議は水曜の 14 時、病院は土曜の午前、友人との食事は第 3 金曜。

一方で「そのうち行こうね」と話していた場所には、日付がありません。

「空いてたら行こう」の予定がいつまでも来ないのは、二人の気持ちが薄れたからではなく、その予定だけが日付を持っていないからです。

日付のない予定は、予定表のどこにも置き場がありません。

置き場がないものは、当日になっても目に入りません。

目に入らないものは、実行されないまま、翌月へ静かに送られます。

予定表の3行は左端に日付が入っているが、右の余白にある「二人で温泉」だけ日付欄が空のまま

去年の秋に話していた日帰りの温泉も、たしか同じように送られていきました。

行きたくなかったわけではありません。

行きたい気持ちだけは、ずっと二人の間にありました。

気持ちがあるのに実行されない予定は、たいてい、意志ではなく置き場の問題です。

思い返すと、「行こうね」と話したときの二人は、けっこう本気でした。

写真を見せ合って、季節はいつがいいかまで話しています。

それでも、話し終えたあとに日付を決める場面だけが、いつも来ませんでした。

日付を決めるのは、なんとなく、もう少し先で大丈夫な気がします。

そのもう少し先が、そのまま今日まで続いているだけです。

二人の時間は、なぜ最後に回されるのか

予定表の順番を思い返してみます。

先に入るのは、たいてい相手のいる約束です。

仕事の会議には出席者がいて、病院には予約があり、友人との食事には相手の都合があります。

どれも、動かすと誰かに連絡しなければなりません。

二人の時間が最後に回されるのは、優先順位が低いからではなく、締め切りも催促もない予定だからです。

パートナーは、予定を守らなかったからといって連絡してくる相手ではありません。

いちばん近くにいる人ほど、「今日じゃなくてもいいよ」と言ってくれます。

その優しさが、少しずつ順番を後ろへずらしていきます。

似た話に、パーキンソンの法則(仕事は、使える時間いっぱいまで膨らんでいくという考え方)があります[^1]。

もともとは仕事の時間について言われたものですが、家の中の予定にも近いことが起こります。

空いた時間は、そのままでは空いたままでいてくれません。

洗濯、買い出し、返信していないメッセージ。

やることは、余白があるとそこまで自然に広がります。

だから「空いた日にやろう」と決めた予定は、その日が来るころには、もう空いていません。

もう 1 つ、二人の予定にだけ起こることがあります。

相手と時間が合うかどうかを、先に考えてしまうことです。

「あの人は今月忙しそうだから、聞くのは来月でいいか」。

気を使っているつもりで、実際には自分の側で結論を出しています。

相手にも同じ遠慮があると、二人とも相手のために黙っている、という静かな状態になります。

誰も悪くないのに、誰も日付を出さない。

二人の時間が消えるときは、たいていこの形をしています。

どうすれば、二人の日は予定表に残るのか

やり方は、拍子抜けするほど簡単です。

二人の日が予定表に残るいちばん確実な方法は、空いた日を探すことではなく、先に1日だけ日付を決めて置いてしまうことです。

家計に「先取り」という考え方があります。

残ったお金を貯めるのではなく、入った時点で先に取り分けておく、という順番の話です。

時間も同じように扱えます。

置き方には、3 つだけ小さなこつがあります。

1 つ目は、内容より先に日付を決めること。

「どこに行くか」を決めようとすると、話は候補選びになって止まります。

先に「九月の第 2 日曜」とだけ決めて、中身は後から相談する順番にすると、話が動きます。

2 つ目は、短くていいこと。

丸一日を空ける必要はありません。

土曜の午前だけ、夜の二時間だけでも、日付があれば予定です。

3 つ目は、二人とも見えるところに置くこと。

片方の頭の中にあるだけの予定は、まだ二人の予定になっていません。

共有のカレンダーでも、冷蔵庫に貼った紙でも構いません。

上段は予定で埋まった帯の隙間に矢印が入りきらない図、下段は先に1日を藍で押さえた帯の図

置いてしまえば、あとは不思議なもので、その日を中心に他の予定のほうが動いてくれます。

先に置いた日があると、他の誘いが来たときに「その日は先約があって」と答えられます。

自分たちの予定にも、ようやく先約という顔がつきます。

そして、日付が決まったあとの数日は、少しだけ楽しみが増えます。

当日より前に、「どこ行こうか」という会話が二人の間に戻ってくるからです。

その会話は、置いた日そのものと同じくらい、二人の時間かもしれません。

置いた日を、うまく使えなかったときは

ここからは、実際に置いてみると出てくる引っかかりの話です。

多いのは、日を決めたのに、当日どう過ごせばいいか分からなくなる、というものです。

久しぶりに向かい合うと、話すことが思いつかない日もあります。

置いた日にうまく話せなくても、それは失敗ではありません。

その日が予定表にあること自体が、二人の時間を残したことになります。

何をするか決まらない日は、家にいたままでも大丈夫です。

「最近どうだった」より、「この半年で、いちばん覚えていることは何だった」のように、少し具体的に聞くと言葉が出やすくなります。

2 つ目の引っかかりは、相手があまり乗り気に見えないときです。

「別にいいけど」という返事は、気が進まないというより、何をするのか分からなくて返事に困っていることがあります。

その場合も、内容ではなく日付だけを先に置いておくと、当日までに相手のほうから「そういえば」と話が出てくることがあります。

3 つ目は、置いた日が流れてしまったときです。

熱が出ることも、急な仕事が入ることもあります。

流れた日は、そのまま消さずに、次の日付へ移しておきます。

消すと、その予定はまた日付を持たない予定に戻ります。

移せば、まだ二人の予定のままです。

もう 1 つだけ、続けるうえでの小さな注意があります。

置いた日を、二人の関係を確かめる日にしないことです。

「せっかく時間を作ったのに」という気持ちが混ざると、その日は静かに重くなります。

うまくいく日もあれば、なんとなく終わる日もあります。

回数を重ねた分だけ、二人の間に日付のある時間が増えていく。

それくらいの気持ちで置いておくほうが、たぶん長く続きます。

まとめ

二人で出かける約束が来ないのは、気持ちが薄れたからではなく、その予定だけが日付を持っていないからでした。

締め切りも催促もない予定は、順番のいちばん後ろに回されがちです。

だから、空いた日を探すのではなく、先に1日だけ日付を決めて、二人とも見えるところに置いておく。

内容は後から決めても構いませんし、うまく過ごせなかった日も、次の日付へ移せば残ります。

来月の予定表に、まだ名前のない一日を 1 つ。