便箋を一枚、机に出してみる。ペンを持ったまま、最初の一行が決まりません。「いつもありがとう」だけでは足りない気がするし、気の利いた言葉を探すほど手が止まります。初めて彼女に手紙を書くとき、つまずくのは気持ちの量ではなく、何から順に書けばいいかが分からないことのほうかもしれません。書き出し、本文、結びの順番さえ決めておけば、一枚は案外書き上げられます。

この記事でいっしょに考えること

一枚の手紙を、書き出しから結びまで順番に組み立てる方法を紹介します。

  • 彼女への手紙は、何から書き始めればいいのか
  • 本文は、どんな順番で書けばいいのか
  • これからのことと結びは、どう書き添えるのか
  • 書いた手紙は、いつ、どう渡せばいいのか

彼女への手紙は、何から書き始めればいい?

彼女への手紙は、宛名のあとに「今日は、これを伝えたくて書いています」と、手紙を書いた理由を一文で置くと書き始めやすくなります。

最初の一行で迷うのは、そこに手紙全体の印象を背負わせようとするからです。けれど、書き出しは上手である必要はありません。読む人が「何の手紙だろう」と構えずに済めば、それで十分です。

宛名は、ふだん呼んでいる呼び方で構いません。手紙だからと改まった呼び方にすると、書く側も読む側も少し落ち着かなくなります。いつもの名前を書くと、続く文章も自分の声に近づきます。

そのあとに、手紙を書いた理由を一文だけ書きます。

  • 「今日は、ずっと言えていなかったことを伝えたくて書いています」
  • 「この前のことが嬉しかったので、忘れないうちに書いておきます」
  • 「口で言うと照れてしまうので、手紙にしてみました」

理由が書いてあると、読む人は安心して続きを読めます。改まった手紙は、ときに「何か悪い話かな」と身構えさせることもあるからです。

季節のあいさつや、「突然の手紙でごめんね」といった前置きは、なくても失礼になりません。前置きが長くなるほど、伝えたいことにたどり着く前に、書く側の手が疲れてしまいます。

書き出しの一文に迷ったら、彼女に話しかけるつもりで声に出してみるのも一つの方法です。口から出た言葉を、そのまま一行目に書いてしまって構いません。

初めての手紙だからこそ、立派な一行より、いつもの二人らしい一行のほうが、彼女には書いた人の顔が浮かびやすいはずです。

白紙の便箋が一枚、木の机に置かれ、その上に藍色のペンが一本添えられている。窓からやわらかな朝の光が差している

本文は、どんな順番で書けばいい?

本文は、「二人の日常の一場面」→「そのとき自分が感じたこと」→「ありがとう」の順で書くと、気持ちがまっすぐ伝わりやすくなります。

いきなり「いつもありがとう」から書き始めると、何に対しての感謝なのかがぼやけてしまいがちです。先に一つの場面を書いておくと、感謝の言葉が、その場面に結びついて届きます。

まず、思い出す場面を一つだけ選びます。特別な旅行でなくても構いません。

  • 疲れて帰った日に、何も聞かずに温かいお茶をいれてくれたこと
  • 待ち合わせに遅れたとき、「大丈夫だよ」と笑ってくれたこと
  • 自分の話を、最後まで急かさずに聞いてくれたこと

次に、そのとき自分が何を感じたかを書きます。「助かった」「ほっとした」「嬉しかった」のような、短い言葉で十分です。彼女の気持ちを想像して書くより、自分の側に起きたことを書くほうが、読む人は受け取りやすくなります。

最後に、「ありがとう」を書きます。ここまで来ると、「あのときのお茶、ありがとう」と、何に対しての感謝かがはっきりします。

場面を一つに絞ると、手紙が短くなりすぎるのではと心配になるかもしれません。けれど、一つの場面を少し丁寧に書くほうが、思い出を全部並べるより、読み手の心に残りやすいものです。

書いているうちに、ほかの場面も思い出したら、同じ順番でもう一つ足してもいいでしょう。それでも、多くて三つまでにしておくと、一枚の便箋に無理なく収まります。

気づいたことを具体的に言葉にする考え方は、相手の「今日」を一言にしてみる習慣にも通じます。

これからのことと結びは、どう書き添える?

これからのことは、「これからも〇〇できたら嬉しい」と自分の願いとして一文だけ添え、最後に結びの言葉、名前、日付を書くと、一枚の手紙が締まります。

感謝を書き終えたあと、「これからもずっと一緒にいてね」のような大きな約束を書きたくなることがあります。気持ちとしては自然ですが、約束の形にすると、読む人が返事を求められているように感じることもあります。

そこで、これからのことは、自分の願いとして書いてみます。

  • 「これからも、休みの日に一緒に散歩できたら嬉しい」
  • 「今度は、私がお茶をいれる番にしたいな」

願いは一つで構いません。二人で叶えることを決めるのは、手紙を読んだあとの会話に任せておけます。

結びの言葉は、「読んでくれてありがとう」「また話そうね」のように、ふだんの会話の終わり方に近いものが書きやすいでしょう。最後に自分の名前と、書いた日付を添えます。日付があると、何年か経って読み返したときに、その頃の二人を思い出す手がかりになります。

二つ折りの白紙の便箋と淡い生成りの封筒が白い机に並び、そばの白い一輪挿しに藍色の釣鐘形の花が咲いている

ここまでを組み合わせると、たとえば次のような一枚になります。

〇〇へ
今日は、ずっと言えていなかったことを伝えたくて書いています。
先週、仕事で疲れて帰った夜、何も聞かずに温かいお茶をいれてくれたよね。あのとき、肩の力がふっと抜けて、ほっとしました。
あのお茶、本当にありがとう。
今度は、私がお茶をいれる番にしたいな。
読んでくれてありがとう。また話そうね。
10月18日 △△より

〇〇と△△、お茶の場面を、二人の名前と出来事に差し替えれば、そのまま使えます。

便箋の枚数や文字数に、正解はありません。一枚に満たない短い手紙でも、場面と気持ちとありがとうがそろっていれば、手紙として十分に届きます。

書いた手紙は、いつ、どう渡せばいい?

書いた手紙は、特別な日を待たずに、二人が落ち着いて過ごせる日に手渡しすると、気負わずに渡せます。

誕生日や記念日まで取っておこうとすると、その日の予定やプレゼントに紛れて、手紙が脇役になってしまうこともあります。何もない週末の夜や、出かける前の少し空いた時間のほうが、ゆっくり受け取ってもらえる場合もあります。

渡すときは、「あとで読んでね」と一言添えて渡すのも一つの方法です。目の前で読まれるのが照れくさいなら、それで構いません。

白い壁の小さな棚に、白紙の封筒が一通、数冊の本のそばにそっと立てられている。隣には藍色のマフラーがたたまれ、横からやわらかな夕方の光が差している

感謝を手紙にして届けることについては、ポジティブ心理学の研究で、「感謝の訪問(gratitude visit:お礼を言えていない人へ感謝の手紙を書き、本人に届けること)」という名前で調べられてきました。

インターネット上で参加者を複数の練習にランダムに分けた研究では、感謝の訪問をした人の幸福感に、直後に大きな変化が見られたと報告されています。ただし、その変化が続いたのはおよそ1か月で、3か月後の調査では見られなくなっていました[^1]。

この研究で手紙を受け取ったのは恋人に限らず、調べられたのも書いた人自身の気分です。恋人への手紙で二人の関係が良くなると確かめられたわけではありません。

それでも、一度きりの手紙で上がった気分が時間とともに元に戻っていくのなら、手紙を特別な一回にしすぎなくてもいい、と考えることはできます。

今日できる一歩として、最近「助かった」と感じた場面を一つ思い出し、その場面と「ありがとう」だけを、短い手紙かカードに書いてみてください。長い便箋でなくても、一言のカードからでも始められます。

照れくさくて言葉にしにくいときの伝え方は、「ありがとう」が照れくさくて言えない人への小さな工夫も参考になります。

まとめ

彼女への手紙は、うまい言葉を探すより、順番を決めて書くと一枚を書き上げやすくなります。宛名と手紙を書いた理由の一文で始め、日常の一場面、そのとき感じたこと、ありがとうの順で本文を書きます。

これからのことは自分の願いとして一文だけ添え、結びの言葉、名前、日付で締めくくります。便箋の枚数に正解はなく、短い手紙でも十分に届きます。

渡すのは、特別な日でなくても構いません。最近「助かった」と思った場面を一つ、今日のうちに書き留めてみる。そこから、二人だけの一枚が始まります。

[^1]: Seligman, M. E. P., Steen, T. A., Park, N., & Peterson, C. (2005). Positive psychology progress: Empirical validation of interventions. American Psychologist, 60(5), 410–421. https://doi.org/10.1037/0003-066X.60.5.410