帰り道、どちらからともなく「そろそろ、ちゃんと話しておいたほうがいいのかな」という言葉が出る。うなずき合ったものの、家に着くと何から話せばいいのか分からず、その夜はいつもの会話で終わってしまう。結婚を考え始めた二人にとって、話し合うことは住まいも仕事もお金も家族もあって、並べるほど重く感じられます。けれど、結婚前の話し合いは、一晩で全部を確かめる試験ではありません。今夜の一つを選ぶところから始められます。
この記事でいっしょに考えること
結婚前に話しておきたい話題を、無理なく一つずつ選んでいく方法を紹介します。
- 結婚前に話し合うことは、何から始めればいいのか
- 暮らしと仕事は、どこまで話しておけばいいのか
- お金と家族のことは、どう切り出せばいいのか
- 一度で決まらない話は、どう残しておけばいいのか
結婚前に話し合うことは、何から始めればいい?
結婚前に話し合うことは、全部の項目を一度に確かめようとせず、「今夜はこれだけ」と話題を一つ選んでから始めると、落ち着いて話しやすくなります。
結婚前に確認したいことを並べると、たいてい長い一覧になります。住む場所、働き方、家事、お金、実家との距離、子どものこと。どれも大切に思えるほど、どこから手をつければいいか迷います。
一覧を前にして、二人で順番に全部を埋めようとすると、話し合いは面接のような空気になりがちです。答えられない項目が出るたびに、「まだ考えていないの?」と、相手を問いただすような気持ちが混ざってしまうこともあります。
そこで、最初に決めるのは答えではなく、今夜話す一つの話題です。
- 最近二人の間で、少しだけ話に出たこと
- どちらかが、前から気になっていたこと
- 答えが分からなくても、話してみたいこと
選ぶのは、いちばん大事な話題である必要はありません。話しやすい話題から始めて、二人で話す感覚に慣れていくと、重い話題にも少しずつ近づいていけます。
話題を選んだら、「今日は答えを出さなくてもいいね」と一言添えておくのも一つの方法です。決めることより、相手がどう考えているかを知ることを、その夜の目的にできます。

暮らしと仕事は、どこまで話しておく?
暮らしと仕事の話は、「いつまでに何を決めるか」より先に、それぞれがどんな毎日を送りたいかという希望と、譲りにくい条件を分けて聞いておくと、二人の違いが見えやすくなります。
住む場所や働き方は、結婚前に決めておきたいと感じやすい話題です。けれど、仕事の予定や家族の事情によって、すぐには決められないことも少なくありません。
そこで、決めることと聞いておくことを分けてみます。
- どのあたりに住みたいか、通勤や実家との距離で譲りにくいことはあるか
- これからの働き方で、続けたいこと、変えてみたいことはあるか
- 家事はどんな分け方なら無理がなさそうか
- 一人で過ごす時間は、どのくらいあると落ち着くか
希望は「こうできたらいいな」、条件は「これは難しい」という言い方で、それぞれ別に聞きます。希望は話しながら変わってもいいものとして、条件は相手が大切にしている理由と一緒に受け取ります。
二人の答えが違っても、その場でどちらかに合わせる必要はありません。違いが分かったこと自体が、その夜の収穫です。
住む場所の話をもう少し深めたいときは、家賃と間取りで話が終わる二人へも参考になります。一人の時間については、「一人の時間がほしい」と言えない夫婦へで詳しく考えています。
お金と家族のことは、どう切り出す?
お金と家族の話は、正解を決める場ではなく、今の考えと「まだ分からない」をそのまま並べる場として切り出すと、どちらも身構えずに話しやすくなります。
お金と家族は、結婚前に話し合うことの中でも、切り出しにくい話題です。収入や貯金のことを聞くと、相手を値踏みしているように感じてしまう。実家の話をすると、相手の家族を評価しているように聞こえないか気になる。そんな迷いがあるかもしれません。
お金の話は、金額から入らなくても始められます。
- 二人で一緒に払いたいものは何か
- それぞれが自由に使いたいお金は何か
- お金のことで、育った家で当たり前だったことは何か
使い道の話から入ると、相手が何を大切にしているかが見えてきます。詳しい家計の分け方は、話しながら少しずつ決めていけば十分です。
家族のことは、実家とどのくらいの距離で付き合いたいか、年末年始や帰省をどう過ごしたいか、といった身近なところから聞いてみます。
子どもについての希望のように、今は答えにくい話題もあります。そのときは、「今話せるところまで」と「まだ分からない」を分けておきます。分からないと言えることも、二人にとって大切な答えの一つです。

お金の使い方の違いについては、お金の使い方が違う二人へでも取り上げています。
一度で決まらない話は、どう残しておく?
一度で決まらない話は、「話した」「次に話す」「今は話さない」の三つに分けて残し、次に話す話題には、いつ、どんな場面で続きを話すかまで決めておくと、話し合いが途中で消えにくくなります。
結婚前の話し合いでは、その夜のうちに結論が出ない話題のほうが多いはずです。そのまま「また今度ね」で終わると、次の「今度」がなかなか来ません。
目標を行動に移す研究では、「実行意図(implementation intentions:『〇〇のときに、△△をする』と、場面と行動を先に結んでおく計画)」という考え方が知られています。
場面と行動を結んだ計画は、目標を行動に移す助けになることが、多くの研究で報告されてきました[^1]。ただし、調べられてきたのは健康や学業などさまざまな目標で、二人の話し合いそのものではありません。決めれば必ず続く、という約束でもありません。
それでも、「今度話そう」を「次の日曜、夕食のあとにお茶をいれたら、続きを話そう」に置き換えることはできます。場面が決まっていると、話題を思い出すきっかけが、暮らしの中に一つ置かれます。
今日できる一歩として、今夜話した話題を一つだけ書き留め、その横に「次は、〇曜の夜、〇〇したら続きを話す」と一文で添えてみてください。
書き留める紙は、一枚で構いません。三つに分けておくと、次に何を話すかが見えやすくなります。
- 話した:今夜、お互いの考えを聞けた話題
- 次に話す:続きを話したい話題と、その日と場面
- 今は話さない:まだ話す準備ができていない話題
「今は話さない」は、避けている印ではありません。今の二人が話せる範囲を、正直に書いておく欄です。
将来の話がいつも流れてしまう理由は、「この先、どうしたい?」が、いつも宙に消えてしまう二人へで考えています。

まとめ
結婚前に話し合うことは、一晩で全部を確かめなくて大丈夫です。今夜話す話題を一つだけ選び、答えを出すより、相手の考えを知ることを目的にすると話しやすくなります。
暮らしと仕事は希望と譲りにくい条件を分けて聞き、お金と家族は今の考えと「まだ分からない」を並べます。決まらない話は「話した」「次に話す」「今は話さない」に分け、次に話す日と場面を決めておきます。
結婚の前に話したことは、結婚したあとも少しずつ変わっていきます。今夜の一つを、二人で選ぶところから始めてみてください。
[^1]: Gollwitzer, P. M. (1999). Implementation intentions: Strong effects of simple plans. American Psychologist, 54(7), 493–503. https://doi.org/10.1037/0003-066X.54.7.493
